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【これからは予防の時代14】良性乳腺疾患とマンモグラフィーの見方

今回は、前回の乳ガンのメカニズムから一歩進めて、良性乳腺疾患をガン化しやすいもの、しにくいものに分類してご紹介します。また普段、健診で利用されるマンモグラフィー画像の見方についてもご説明していきます。

 

良性乳腺疾患とガンの関係

生体検査の結果、乳腺症などの「良性乳腺疾患」だった場合、その後の乳ガン発症リスクが推定できるときと、できないときがあります。リスクが推定できる場合は、経過観察や予防を行なっていきます。この乳腺疾患の病変には種類があって、増殖性の有無と、増殖性アリのもののうち異型の有無で3つのタイプに分けられます。 

増殖性アリ、異型アリ(異型を伴う増殖性病変):異型乳管過形成、異型小葉過形成など
増殖性の場合、乳ガン発症リスクは確実に増加します。さらに異型アリの場合は、中等度以上の乳ガン発症リスクがあると報告されています。異型過形成の場合、乳ガンが3.67倍も増加すると言われているのです。

増殖性アリ、異型ナシ(異型を伴わない増殖性病変):異型のない上皮過形成、乳管内乳頭腫など
増殖性はあるものの異型のない病変は、異型を伴う場合より少ない数のガン遺伝子の突然変異がある状態と考えられ、軽度にガン化しやすい状態です。「乳管内乳頭腫」は、乳管の中で、乳管細胞が増殖してできる乳頭状の良性腫瘍です。

増殖性ナシ(非増殖性病変):嚢胞、アポクリン化生、単純線維腺腫など
増殖性も異型もないタイプは、ガンとはほぼ関係ないと言っていいと思います。「嚢胞」というのは、乳腺から分泌された液体が乳管に留まり、袋状になったもののこと、「アポクリン化生」は、乳腺細胞が汗腺細胞と似てくる変化を示します。「線維腺腫」は、良 性腫瘍で20〜30代に多いのが特徴です。

 

マンモグラフィで分かること

出典:NPO法人乳がん画像診断ネットワーク

現在では、乳ガン検査の主流になりつつある「マンモグラフィ」ですが、この検査で何が分かるのでしょうか。マンモグラフィでは、乳腺としこりが白く写ります。写真では、左から右に向かって乳腺の濃度が高くなっているのが分かりますね。このように乳腺濃度は、個人差がかなりあります。また同じ人であれば、若いときのほうが濃いことが多いですが、歳をとっても薄くならない人もいます。いずれにしても、乳腺濃度が濃いということは、乳腺細胞が多いということですから、乳ガンが発症しやすくなります。

 

乳腺濃度だけの診断は危険

42の研究報告をまとめた結果では、マンモグラフィの乳腺濃度が5%未満(写真の一番左より薄いくらい)の場合の乳ガン発生率を1とした場合、5〜24%の濃度では1.79倍、25〜49%で1.11倍、50〜74%で2.92倍、75%以上で4.64倍になることが分かっています。

とは言え、年齢が乳腺濃度に影響があることは先ほど説明したとおりですし、そのほかBMI値も乳腺濃度と乳ガン発症リスクに関連します。ですので、マンモグラフィでの乳腺濃度と、乳ガン発症リスクの関連性を検討する場合は、少なくとも年齢やBMIを考慮する必要があるのです。

 

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高島裕一郎(医学博士)

予防医学を専門としている医師です。医療の高度化でさまざまな病気の原因がわかるようになりました。これは同時に、いろいろな病気を予防することができるようになってきたことを意味します。生活習慣病やガンなど、生活のなかで予防のできる病気と、その予防方法について、お伝えしていこうと思います。日本医師会認定産業医、日本人間ドック学会認定医。