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【基本の薬膳13】怒・喜・思・悲・恐の「5つの感情」もバランスが大切

感情が高ぶって人と衝突したり、ストレスで体調を崩した経験は誰にでもあるかもしれません。東洋医学や薬膳では、感情のバランスを保てば体への影響に良いと考えるため、今回は「五情」についてご紹介します。「心身一如」という言葉がありますが、これは心と体が繋がり合うとする考え方で、東洋医学や薬膳の基盤になっています。つまり、肉体だけでなく心(感情)のバランスも大切ということです。五行説による「五情」では、人の感情を「怒」、「喜(笑)」、「思」、「悲(憂)」、「恐」に分類して、それぞれが行き過ぎないように上手く関わり合えば「中庸(健康な状態)」を目指せるというものです。

 

「木」の感情、「怒」

「怒」、つまり怒りの感情は、イライラやストレスに関係する五臓の「肝」と結びついています。「怒」が強い状態は、「気」が上昇して「肝」の働きを高ぶらせる場合が多く、怒りっぽさや落ち着きのなさがあるほか、イライラしたり、生理痛や肩こりが重くなる傾向にあります。頭痛や眼精疲労も出るため、「肝」に働きかける食材でバランスを保ちつつ、運動や好きな趣味でストレスを発散するように心がけます。 

 

おすすめする食材

アサリ、シジミ、シイタケ、ホウレン草、小松菜、セロリ、セリ、ヨモギ、春菊、イチゴ、梅、酢、ゴマ など 

なかでもセロリやセリなどの香味野菜は、「肝」の行き過ぎた働きを落ち着かせます。また、春に感じるイライラやのぼせ症状には、フキノトウ、ワラビ、ウドといった春ならではの食材で「気」を促します。

 

「火」の感情、「喜(笑)」

喜びの感情「喜(笑)」は、「気」を巡らせ、体を適度に緩ませる働きがあります。緊張しているときに「喜」の情が起こって笑えば、体の力がフッと抜けますね。また、「喜」の情を安定的に上手く使うと、物事を楽しく前向きに受け止められ、楽しんで日々を過ごせます。五臓の「心」と関わるので、「喜」の情が行き過ぎて「心」が乱れると、物忘れが増えたり、不眠、不安、多夢、不整脈、動悸、息切れなどの症状が出ます。「気」が下方に停滞し、むくみが出るのも「心」の弱りです。

 

おすすめする食材

ゴボウ、緑豆、ユリ根、ナツメ、レンコン、スイカ、トマト、ニンジン、菊花、シソ、牡蠣、牛乳、烏龍茶、紅茶、利尿作用のある食材 など

 

五情には、それぞれに関わりの深い「五臓」があるので、五臓を補う食材を中心にしながら不調を戻していきます。

 

「土」の感情、「思

「五情」で考えると、体の重さは「考えすぎ」、つまり「思」念の巡らせすぎと考え、五臓では「脾」を弱らせます。思い悩む性格の方や、体にだるさや重みのある方は「思」の情が行き過ぎていると考え、消化不良のほかむくみや胃内停水があったり、体の水はけが悪い場合(「水毒」)もあります。「水毒」症状や体の不調は薬膳(食べ物)でも補えますが、発汗を促す軽い運動やストレッチで気分転換をしてもいいですね!

 

おすすめする食材

米、ハト麦、鶏肉、小豆、黒豆、カボチャ、ニンジン、アスパラガス、長芋、葛、ショウガ、玉ネギ、キクラゲ、トマト、マイタケ、リンゴ、レモン、ゴマ など

 

「金」の感情、「悲(憂)」

「悲(憂)」である、悲哀の感情が起きると、気持ちが落ち込むこともあり、度を超すと生きるための活力を失くすほか、五臓の「肺」を弱らせます。「肺」が弱ると咳が出て喉や肌が乾燥したり、湿潤機能が衰えるので便秘になると考えられます。一方で「悲」の情をうまく使えば、気が済むまで涙を流すことで悲しみや辛さを軽減できるといった、ストレス解消にもなります。現代では、ストレス解消のために定期的に泣くことを心がける人もいますね。

 

おすすめする食材

ハト麦、松の実、クルミ、銀杏、レンコン、ダイコン、山芋、ユリ根、玉ネギ、長ネギ、ニンニク、ミント、シソ、ショウガ、ニラ、ナシ、柚子、シナモン、唐辛子 など

 

「水」の感情、「恐」

五情の「恐」は、恐怖などの恐れの感情なので、支配されると活力を蓄えられず、五臓の「腎」を弱らせます。「腎」が弱ると驚きやすい反面ぼんやりしたり、発育に支障が出るとされるほか、毛が抜けて皮膚の色がくすんだり、骨粗しょう症になりやすく女性では月経量が減る場合もあります。

 

おすすめする食材

イカ、ホタテ、アジ、エビ、ワカメ、味噌昆布(「鹹」味)、クリ、クルミ、サツマイモ、山芋、トウモロコシ、黒豆、ブドウ など

 

食べ物だけで性格を直すことはやや難しいですが、不調を薬膳(食材)で補うことでバランスを調え、体や気持ちを過ごしやすくしていきましょう!

 

感情もバランスをとって「中庸」=「健康」へ

「五情」の1つ1つに着目すると、感情と体との関わり合いが見えてきます。「五情」に「憂」と「驚」の情を加え、「七情」とする分類もあり、いずれもそれぞれの感情が行き過ぎると「心」や「脾」を弱らせ、「肝」の働きが行き過ぎたりします。食材を選ぶときもバランス(「五味調和」)が大切ですが、感情も「ほどほど」が重要になり、「情」の表裏を上手に使えるとより生きやすくなると感じます。日本のことわざに「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し(ごとし)」とあるように、心配し過ぎたり気苦労といった心の動きが原因で体が疲れ、その結果未病の状態となる場合もあります。体を温めたり冷ましたりする食材の性味(「五性」)や、食性を変化させる工夫もご紹介していますので、薬膳でバランスを調えて過ごしやすい体を目指しましょう!

 

 

A's Pumpkin(薬膳マイスター)

日々健やかに過ごしたいと考える、おばちゃまライターです。
薬膳マイスター資格を取得、自然由来食材のエネルギーをよりよく活かすことで、ひとりでも多くの方が健やかに過ごせるお手伝いが出来ればと思っております。国際薬膳食育師3級。