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【調理の化学】旨味を引き出すエビの茹で方

まずは、肉類や魚介類の美味しさについての基礎知識。うま味の成分として知られているのは昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸(IMP)、シイタケのグアニル酸(GMP)などがある。さらに、これら成分が複合して含まれると、相乗効果によりうま味が何倍にも強くなるが、同時に甘味や塩味も強くなる。

 

寿司屋から学んだエビの茹で方

ある日のこと、寿司屋の主人が車海老を茹でているところに行き当たった。茹で方を見ていると、生きている車海老を15-6本串に刺し、しっぽを下にして、鍋に入れ、火をつけた。しばらくして沸騰してきたら差し水をして、再び沸騰したら終了で、この間10数分。串を外し、粗熱をとれば、美味しい茹でエビができあがった。

 

研究室で寿司屋の茹で方を検証すると

主人に聞いたところ、この方法で茹でると、車海老の甘み・美味しさをよく引き出せるうえ、エビの固さも程よいとのこと。そこで、築地中央卸売市場で生きた車海老を手に入れ、主人と同じ方法で実験室で茹でてみた。すると、実に甘みのある、程よい柔らかさの茹でエビができあがった。イカ、タコ、エビ・カニ類では、IMPに相当する成分としてアデニル酸(AMP)が知られていて、茹でたエビが美味しくなったのはこの成分が増加したためである。

 

引き出されたエビの旨味

生のエビは加熱するとアデニル酸(AMP)が増え、この成分がエビの甘味を一層強めていることが知られている。車海老を水から茹ではじめ、時間の経過とともにAMPの量を測ってみると、加熱時間の増加に伴って少しずつ増え、差し水をする前後の時間に最も増えていることが分かった。AMPがピークに達する頃、エビの茹で加減もちょうど良くなっている。この車海老を茹でる絶妙の加減は、長年の経験によるものと感服した次第である。

イラスト:たちばなかより

福家眞也 名誉教授(食品学)

東京学芸大学教育学部・生活科学科・名誉教授(農学博士)・食品学