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【和菓子歳時記18】日本の春を感じるお菓子「桜餅」、桜葉の香りの秘密

3月3日の桃の節句を過ぎるとようやく春らしくなり、そろそろ桜の開花ニュースが届く時期になりますね。今回は、塩漬けした桜の葉で包んだ、香り豊かな和菓子「桜餅」をご紹介します。2017年の今年は、薄皮であんを包んだ関東風の「桜餅」が、発祥の地と言われる東京・向島の長命寺の門前で販売されてからちょうど300年。江戸時代から現在まで、永く愛されている和菓子なんですね。

 

桜餅、「関東風」と「関西風」の違い

「桜餅」と同じ名前で呼ばれていても、関西と関東では違う和菓子を指します。関東風の桜餅は、水溶きした小麦粉や白玉粉を鉄板に伸ばして焼いた薄皮生地に「あん」を乗せて挟んだり巻いたりしたものを、塩漬けの桜の葉で包みます。関西風桜餅は、もち米が原料の「道明寺粉」を蒸したもので大福のように「あん」を包んでから、こちらも塩漬けの桜の葉で包みます。どちらも、塩漬けの桜葉で包むことで、葉の香りの移り香を楽しめる春らしい和菓子です。

 

塩漬けの「桜の葉」から生まれる香り

桜餅の独特の香りは、塩漬けの桜の葉の香りですが、生の桜葉にはこのような芳香はありません。塩漬けにすることで、桜葉に含まれるクマリンという成分が芳香を発するようになるのです。桜餅には、クマリンを多く含む「オオシマサクラ」の桜葉が使用されることが多く、静岡県の伊豆半島産が有名です。クマリンはシナモンにも含まれていて、抗酸化作用や殺菌作用、抗血液凝集作用がありますが、過剰に摂取すると肝臓や腎臓に悪いとされています。大量に継続的に摂取しなければ大丈夫ですが、食べ過ぎに注意が必要なので、覚えておくといいですね。

 

「葉っぱ」は食べる?食べない?

薬効もある桜餅の葉ですが、食べるのと、食べないのはどちらがおすすめなのでしょうか?柔らかで塩味の効いた桜の葉は、甘い餅と一緒に食べた味も格別なので「葉も食べる」ように作っているお店が多いですが、お好みではがしてもいいでしょう。一方お店によっては、餅の香り付けと乾燥を防ぐために、あえて固めの桜葉を使って「葉は食べない」ように作られた桜餅もあります。桜の葉の産地や種類、使用している目的も多様ですので、販売しているお店で尋ねてみるのが良いかもしれませんね。

 

今年は「桜餅」誕生300周年の年

関東風の桜餅は、江戸時代 の享保2年(1717年)に、東京・向島にある長命寺の門番が、大川(墨田川)沿いの桜並木の葉を樽で塩漬けにし、その葉で餅を包んだお菓子を考案。長命寺の門前に店を出して売ったのが始まりと言われています。今年はそれから数えて300年目に当たる、「桜餅誕生300周年の年」です。現在でもこのお店は続いていて、「向島長命寺桜もち」の名前で今でも当時の味を守っています。

 

まとめ

桜といえば「お花見」。満開の桜の中で美味しい料理とスイーツを楽しむお花見は、日本の春の風物詩ですね。江戸時代に長命寺の門前で販売された桜餅も、花見客に大好評だったそうです。また桜の開花は卒業式や入学式などお別れと出会いの季節と重なるので、桜を見ると懐かしい思い出が蘇ることも。桜は日本人の生活に結びついた、特別な花ですね。

 

 

石原マサミ(和菓子職人)

創業昭和13年の和菓子屋・横浜磯子風月堂のムスメで、和菓子職人です。季節のお菓子や、和菓子にまつわる、歳時記などのご紹介を致します。楽しく、美味しい和菓子の魅力をお伝えできたら、嬉しいです。石原モナカの名前で、和菓子教室も開催中。ブログはこちら