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【聴こうクラシック4】雨をロマンチックに彩る、ショパンの「雨だれ」

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

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雨の日は気分が沈みがちですが、雨やしずくの音は、感じ方ひとつで1日を情緒あるものにしてくれます。今日はそんな雨の日に誕生した名曲、ショパンの「雨だれ」をご紹介します。ピアノで奏でられる雨音の調べを、楽しんでみてください。

 

雨のしずくを音に乗せた「ピアノの詩人」

「雨だれ」は、ピアノ曲「前奏曲第15番 変ニ長調」の通称で、5分ほどの曲です。24調で構成されたバッハの「平均律クラヴィーア曲集」に憧れていたショパンが、24調を用いて新しい形で作った「24の前奏曲作品28」の15番目の楽曲です。この「雨だれ」の変ニ長調は、ピアノの黒鍵を利用した調で、透明感のある響きが特徴。終始刻まれる「ラ♭」の音が雨のしずくを表していますが、曲の終盤で1カ所だけ、しずくの刻みがなくなくなるのです。このしずくの途切れには劇的な効果があり、ハッと我に帰る感覚にさせられます。このように、ピアノ1台でできる表現を追求し続けたショパンは、いつしか「ピアノの詩人」と呼ばれるようになりました。

 

帰れぬ祖国への愛が、情熱と創作の源

フレデリック・フランソワ・ショパンは1810年にポーランドで生まれ、1849年、39歳のときにパリで亡くなりました。音楽一家に育ち、幼いころからピアノの才能を発揮したショパンは、10代で演奏家・作曲家として成功を収め、活動の場を広げるため20歳のとき音楽の都・ウィーンへ旅立ちます。ですが出発直後、ポーランドでは自由化を求める武装反乱が勃発し、ロシア軍に鎮圧されてしまいます。祖国の自由化への闘いに参加できなかったショパンは、彼なりの形で祖国に貢献しようと固く決意し、パリで開かれた演奏会を成功させます。有名な「革命エチュード」は、この頃に作曲されました。

 

有名な女流作家との恋に身を投じ、「雨だれ」誕生の地へ

ウィーンを経てパリに活動の拠点を移したショパンは、26歳ときジョルジュ・サンドという女流作家に出会います。ショパンは今でいう草食系男子で、サンドは恋多き肉食系女子。ショパンの彼女への第一印象は良くなかったと言われています。しかし共通の友人も多く、文化人が集うサロンコンサートで会ううちに惹かれ合い、交際が始まります。しかし当時のパリでは、恋多きサンドとの関係はスキャンダルの対象。ショパンが28歳のとき、2人はスペインのマヨルカ島へ逃避行します。もともと体が弱く結核を患っていたショパンの療養も兼ねたバカンスでしたが、季節が悪くかえって病状は悪化してしまいます。

 

恋人の帰りを待つ雨の日、名曲は生まれた

マヨルカ島滞在中のある日、サンドの外出中に急に雨が降り出します。雨音を聞きながら1人心細く恋人の帰りを待つショパンが、ピアノに向かって生まれたのがこの曲です。「雨だれ」と呼ばれるのは、サンドの回想録に「この夜の彼の作品は、『マヨルカ島のヴァルテモ―ザ修道院の』瓦の上で反響する雨のしずくに満ちていたが、そのしずくは、彼の想像と音楽のなかでは、彼の心に天から落ちる涙となっていた※」と書かれていたから。異国で病と闘いながらピアノと向き合い続けたショパンを、1番理解していたのがサンドなのでしょう。2人はこの逃避行の9年後に別れてしまいますが、回顧録のサンドの言葉には、ショパンへの愛情が感じられますね。

 

※「クラシック名曲解剖(ナツメ社)」より

 

愛されキャラだったショパン

ショパンと同時代に活躍した作曲家友だちの証言によれば、サンドは愛を込めてショパンを「シップシップ」と呼び、メンデルスゾーンとリストは「ショピーノ」、またベルリオーズは「ショピネット」と呼んでいたそうです。お酒と葉巻が苦手で、ココアが大好きだったショパンに、サンドはいつもおいしいココアを入れていたそう。また、社交界のマダムたちの間でアイドルだった彼は、いつも優雅な服装に身を包み、常に身に着けていた鹿皮の白手袋は「ショパン風手袋」と呼ばれていたそうです。 

 

それでは「雨だれ」の雨の調べに耳を傾けてみましょう

かつて「三大ショパン弾き」と呼ばれたピアニストの1人、フランスを代表する、アルフレッド・コルトーの1933年の録音です。

 

参考文献

クラシックの名曲解剖 野本由紀夫著 ナツメ社
絵本で読む音楽の歴史 Vol.5ショパンとロマン派の音楽 カルロ・カヴァッレッティ著 ヤマハミュージックメディア
図説ショパン 伊熊よし子 河出書房新社
大作曲家の少年時代 ウルリッヒ・リュ―レ 中央公論新社
ショパンパリコレクション 東貴良 ハンナ(旧:ショパン)
クラシック作曲家あ・ら・かると 中堂高志 三省堂
マンガと音楽の甘い関係 高野麻衣 太田出版
虹のプレリュード 手塚治虫 講談社
僕のショパン 桃雪琴梨 角川グループパブリッシング
吉松隆の 調性で読み解くクラシック 吉松隆 ヤマハミュージックメディア

 

◇前回記事◇【聴こうクラシック3】父の日は、音楽の父バッハの「コーヒーカンタータ」
https://qufour.jp/article/detail/2470

 

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あやふくろう(ヴァイオリン奏者)さん

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。

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