［聴こうクラシック18］ドラマチックオペラ「トスカ」より「星は光りぬ」

空気が澄んだ真冬の夜は、星たちがいっそう輝いて見えますね。今回ご紹介するのは、そんな星空の下で聴きたいプッチーニのオペラ「トスカ」より「星は光りぬ」です。この曲は、テノール歌手の男声アリアの名曲として知られています。凍えそうな夜、この歌に耳を傾けながら星空を見上げてみてはいかがでしょうか。

 

イタリアオペラのメロディーメーカー、プッチーニ

ジャコモ・プッチーニはトスカーナ地方で代々続く宗教音楽家の後継ぎとして1858年で生まれ、1924年65歳のときにベルギーで亡くなりました。14歳で教会オルガニストに就任しますが、18歳のときに聴いたジュゼッペ・ヴェルディのオペラ「アイーダ」に感動し、オペラ作曲家になることを決意。遅咲きではありましたが「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」「トゥーランドット」など代表作に恵まれ、大きな成功を収めます。数多くのオペラ作曲家のなかでもプッチーニのメロディは、忘れがたい美しさがあります。またアリアは、口ずさみやすく、親しみやすいことから聴衆に好評で、今でも頻繫に上演されています。

 

政変に巻き込まれた男女を描くドラマチックな物語「トスカ」

「トスカ」の舞台は1800年のローマ。王制のもとで恐怖政治が行なわれていた時代。主人公・トスカの恋人・カヴァラドッシは、脱獄した政治犯の友人をかくまった罪で捕らえられ、死刑を宣告されてしまいます。トスカは恋人を助けようと警視総監に掛け合い、助命の約束を取り付けます。獄中で処刑を待ちながら、恋人トスカへ最後の手紙を書いていたカヴァラドッシのもとへトスカが現れ、処刑が空砲で行なわれると伝えます。しかし翌日、処刑は実弾で行なわれてカヴァラドッシは息絶え、警視総監に騙されたと知ったトスカも恋人のあとを追って命を落とします。拷問や脅迫、銃殺刑など過激なシーンが多くドラマチックなこの作品は、初演から熱狂的に聴衆へ受け入れられました。

 

恋人を思い、生きていきたいと星に願うアリア

「星は光りぬ」は、処刑前夜、トスカに別れの手紙を書いているカヴァラドッシが、感極まって歌うアリアです。恋人を思う気持ち、死への悲しみ、生への思いが歌い上げられる、いわばクライマックスシーンです。冒頭、クラリネットが印象的なメロディを奏でます。間もなくテノールが語り掛けるように情景描写を歌ったあと、クラリネットのメロディを引き継ぎます。長い息使いが魅力です。テノールのメロディの上をきらめく星のようにヴァイオリンが縁取り、最後は同じメロディを再びテノールが、今度は力強く、ドラマチックに歌い上げます。この曲は3分ほどの短い曲ですが、その美しい旋律、楽器の使い方、ドラマチックさにおいて、数あるアリアのなかでも名曲中の名曲です。

 

かつての劣等生が世界的作曲家に

プッチーニは、代々音楽家の家系の長男として生まれ、将来を期待されながらも、学校の成績はふるわず、音楽家としての芽がなかなか出ませんでした。しかし、35歳でオペラ「マノン・レスコー」を成功させたあとは、オペラ作曲家として順調なスタートを切り、数々のオペラの名作を残します。この時代、録音という新たな科学技術が発達し、当時のスター歌手・エンリコ・カルーソーが彼の作品を積極的にレコーディングしたのもその成功を手伝いました。またプッチーニ自身が旅行好きで、欧米、南米、エジプトなどに出掛けたことも世界的知名度を高めました。さらに名指揮者・アルトゥーロ・トスカニーニが、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で彼の作品を上演したことから、アメリカでも人気になったのです。

 

おすすめの演奏

 

 

それではプッチーニのオペラ「トスカ」より「星は光りぬ」をお聴きいただきましょう。プッチーニの良き相棒だった、テノール歌手・エンリコ・カルーソー、1909年のレコーディングです。

 

 

 

 

オーケストラの様子が分かりやすいのは、テノール歌手・アンドレア・ボッチェリの動画です。

 

 

 

 

途中、曲が編集されていますが、アイススケートの浅田真央選手が現役時代この曲で踊っています。美しい曲とスケートのコラボレーションを楽しんでみてください。

 

 

参考文献

「音楽家の家　名曲が生まれた場所を訪ねて」ジェラール・ジュファン著　西村書店
「三枝成彰のオペラの楽しみ方」三枝成彰著　講談社
「これだけは見ておきたいオペラ」木之下晃・堀内修著　新潮社
「オペラ鑑賞ガイド」小学館
「絵本で読む音楽の歴史 Vol.7 オペラのすべて」アレッサンドロ・タヴェルナ著　ヤマハミュージックメディア