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[聴こうクラシック20]平昌五輪、宇野・銀メダル「誰も寝てはならぬ」

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

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多くのメダル獲得で沸いた平昌五輪では、特にフィギュアスケート勢の活躍ぶりが目立ちました。今回は、銀メダルに輝いた宇野昌磨選手のフリ―プログラム曲、テノールのアリア「誰も寝てはならぬ」をご紹介します。この曲は、イタリアのオペラ作曲家ジャコモ・プッチーニの遺作オペラ「トゥーランドット」のクライマックスで登場する曲です。

 

女を泣かせ、女に泣かされた、情熱的なプッチーニ

ジャコモ・プッチーニは、以前「星は光りぬ」でもご紹介した、イタリアを代表するオペラ作曲家です。トスカーナ地方生まれで、音楽一家のサラブレッドでした。まだ作曲家として駆け出しだった26歳のとき、2児の母であるエルヴィーラ・ジェミニャーニと駆け落ち。しかしエルヴィーラは極度に嫉妬深く、またプッチーニも羽目を外すことが多かったので、それは不幸な夫婦生活の始まりでした。そんななかプッチーニは、35歳のときにオペラ「マノン・レスコー」が大成功し、莫大な資産を手に入れます。仕事も軌道に乗り、多趣味だった彼は、当時新しい乗り物だった自動車に夢中になりますが、44歳のとき自動車事故で足を骨折、全治8カ月の大けがを負います。そのときに雇われたのが、ドーリア・マンフレーディという女性でした。

彼女は献身的にプッチーニを看病しますが、妻エルヴィーラがドーリアとプッチーニとの仲を疑い始めます。妻は結局ドーリアを解雇した挙句、公衆の面前で彼女をののしり罵倒します。錯乱状態に陥ったドーリアは自宅で服毒自殺を図り亡くなってしまいます。ドーリアの家族は死後検視の結果、彼女が処女だったとして、プッチーニの妻を告訴。プッチーニが、ドーリアの遺族に12,000リラの賠償金を支払ったことで、告訴が取り下げられ、この事件はようやく決着がつきました。世を騒がせた事件の当時者となったプッチーニですが、その後も精力的にオペラの作曲を手掛け、最後に取り組んだのが東洋の姫君の婚姻をめぐるオペラ「トゥーランドット」でした。

 

ソロ、オーケストラ、合唱が盛り上げるクライマックスの魅力

「誰も寝てはならぬ」は約4分の短い曲ですが、テノールのソロ、オーケストラのほか、合唱団も加わった豪華な1曲です。始まりは静かですが、徐々に楽器が増えていき、終盤クライマックス直前でテノールがメロディからいったん離れるところが聴きどころです。そしてメロディが合唱へ託されたあと、今度は頂点でいきなりテノールが入ってきます。聴く人の期待が膨らみ、よりドラマチックに曲が盛り上がるように作曲されているのです。では、テノールがどんな場面で登場するのか、「トゥーランドット」の物語を読み解いていきましょう。

 

誰も寝られない理由

このアリアは、オペラの第3幕で王子カラフによって歌われます。舞台は北京。氷のような冷たい心をもちながら、絶世の美女と言われたトゥーランドット姫に一目惚れしてしまったカラフ王子は、姫に求婚します。結婚したくない姫は王子に3つの難題を出し、解決できなければ「殺す」と告げます。王子はみごとに難題を解き明かしますが、姫はそれでも結婚を承諾しません。そこで王子は、夜明けまでに自分の名前を言い当てることができたら、結婚をあきらめて命をささげようと申し出ます。姫は国民に対し、王子の名前を解き明かすまでは寝ることを禁じ、解き明かせなかったら、国民を皆殺しにすると伝えます。姫の御触れを聞き、王子が歌うアリアがこの曲です。

 

リュウの献身的な愛に、ドーリアを重ね合わせたプッチーニ

トゥーランドット姫が国民に寝ることを禁じた夜、王子カラフの女奴隷リュウが、姫に捕えられてしまいます。リュウは「王子の名前を姫に告げるくらいなら」と言って短剣を奪い、自らの胸を刺して絶命します。姫は、王子をかばうリュウの純粋な愛に心を打たれ、姫の心はしだいに溶けていくのです。先ほど紹介したドーリア事件は、作曲の10年以上前のことですが、実はドーリアは亡くなる前「奥さんには復讐して。でも先生(プッチーニ)は困らせないで」と家族に告げたと言います。骨折したプッチーニを懸命に看病したドーリア。晩年のプッチーニは、ドーリアの純粋な想いを音楽で表現したかったのでしょう。

 

トリノ、そして平昌でよみがえった名旋律

この曲は、トリノ五輪の開会式で、世界的テノール歌手ルチアーノ・パヴァロッティが歌ったことで、再び注目されました。この演奏を聴いたフィギュアスケートの荒川静香選手は、これから自分が踊る曲と偶然にも同じで感激したそうです。結果的に荒川静香選手はトリノ五輪で金メダルに輝き、一方でパヴァロッティにとっては最期の舞台となりました。そして平昌五輪では、宇野昌磨選手がこの曲で銀メダルを獲得したのです。

 

おすすめの演奏

 

 

それでは、トリノ五輪の開幕式の、パヴァロッティによる「誰も寝てはならぬ」の様子をご覧いただきましょう。

 

参考文献

「大作曲家たちの履歴書」三枝成彰著 中央公論社
「絵本で読む音楽の歴史 Vol.7 オペラのすべて」アレッサンドロ・タヴェルナ著 ヤマハミュージックメディア
「痛快!オペラ学」永竹由幸著 集英社インターナショナル

 

◇前回記事◇[聴こうクラシック19]平昌五輪、氷の名脇役ショパン「バラード第1番」
https://qufour.jp/article/detail/3559

◇あやふくろう(ヴァイオリン奏者)さんの過去記事一覧
https://qufour.jp/users/article/41058

 

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あやふくろう(ヴァイオリン奏者)さん

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。

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